東京から電車で約1時間。豊かな自然で知られるのどかな温泉郷「湯河原」。熱海や箱根にも近く、万葉集にも詠われており、明治時代には名だたる文豪たちが逗留して筆をとったとか。都会の喧騒をぬけだして、歴史的な名湯と美食に癒されるリトリートの旅に出かけてみませんか。
温泉街で朝食を! お豆腐屋さんの“できたて”の味
むかしから、牧場のアイスと温泉地のお豆腐はウマイッ! と相場が決まっていますが、なかでも「湯河原十二庵」の豆腐はカクベツ。湯河原で人気のお豆腐屋さんで、できたてほやほやの豆腐をはじめ、生ゆばや油揚げ、納豆などを使った定食がいただけます。
「当店のイチオシは『できたてとうふ』。実は大豆って全国に100をこえる品種があって、それぞれの地域に根ざした在来品種ってびっくりするほどおいしいんです。そんな大豆があることを皆さんにも知ってほしくて、毎月ひとつ、選りすぐりの国産大豆をピックアップしてお豆腐を作っています」(店主・浅沼宇雄さん)
この日に使われていた大豆は「もち大豆」。茨城県産の品種で、名前の通りもちもちとした食感が魅力なんだとか。さっそく「できたてとうふ御前」を注文すると、話題の大豆がプルプルと揺れる真っ白な姿になって登場しました。
お豆腐はアツアツで、大豆の甘みが濃厚。もちもち&まったりとした舌触りで、塩をおともにいくらでもいけちゃいます。ほかにも、味噌汁のジャンボ厚揚げ、大豆煮、組み上げ湯葉といったお惣菜6種も添えられて大充実。
一方、店内の物販コーナーでは、10〜15種ものお豆腐のほか、手作りのお惣菜、「豆乳おから焼きドーナツ」といったスイーツなどがずらり。地元の美味しいものや珍しいものも一緒に壁一面に並んでいて、まるで道の駅みたい。きっと気に入る湯河原みやげが見つかるはずです。
きれいな水で作られた新鮮なお豆腐を味わえるのは、まさに自然の懐をゆく旅の醍醐味。たとえば、おなかペコペコで朝の新幹線に乗り、到着後はすぐに「湯河原十二庵」に飛びこんで朝食をいただくプランはいかがでしょう? 訪れる際はぜひご予約を。
・とうふ・生ゆば 湯河原 十二庵
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上42-17
電話:0465-43-7750
営業時間:食事 10:00~14:00(土日祝8:00〜)、カフェ 14:00〜16:30(L.O.16:00)、物販 9:00〜18:00(土日祝:8:00~)
定休日:水曜
公式サイト:https://12an.jp/
カフェと温泉と渓流散歩! 文豪気分で癒やされる公園
古くは万葉集の中でうたわれ、明治時代には夏目漱石や芥川龍之介、谷崎純一郎といった名だたる文豪たちが湯治を楽しんだ湯河原。令和になった今でも、大自然の癒やしと知的な旅をともに満喫できるのが、この地の魅力です。
歴史公園100選にも選定された由緒ある「万葉公園」は2021年にリニューアルし、大人の温浴施設「湯河原惣湯 Books & Retreat」がオープンしました。
湯河原駅からはバスで9分。公園は東から西にかけて長く伸びていて、最も東にあるのが「玄関テラス」。ここには、モダンな足湯、テイクアウト専門のカフェ、コワーキングスペースなどが併設されています。
カフェはテイクアウト専門で、1階ではサンドイッチやスコーン、こだわりのコーヒーなどを販売。なかでも、ぜひ味わってほしいのが「湯河原産みかんジュース」! うっとりするほど濃いオレンジ色で、目が覚めるような天然の甘みに感動すること間違いなしです。
2階には、電源やWi-fi完備のコワーキングスペースや川のせせらぎが聞こえるテラス席も。爽やかな風に吹かれながらのワーケーション、はかどりそうですね。
玄関テラスを出たら、森の中にのびる散策路をたどって西へ。ダイナミックな滝を見ながら、美しい渓流にそって木漏れ日の道を歩き、ほのぼのとしたタヌキの像が並ぶ狸福神社、和歌山県から勧請した熊野神社にもお参りできます。
公園の最も西、散策路の終点にあるのは、大人の日帰り温泉施設「惣湯(そうゆ)テラス」。ここには、源泉掛け流しの露天風呂、季節の食材を使ったお料理、1000冊にのぼる蔵書などが揃っています。
この湯を愛した文豪たちのように、どこにも行かずにじっくりと湯治を楽しみ、疲れを洗い流した後は知的な世界に浸って過ごす…というのも、湯河原らしい旅のひとつです。
・万葉公園「湯河原惣湯Books and Retreat」
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上566
・玄関テラス
電話:0465-43-7830
営業時間:10:00〜17:30
定休日:第2火曜
・惣湯テラス
電話:0465-43-8105
営業時間:10:00〜18:00(最終入館時間16:30)、土日祝〜20:00(最終入館時間18:30)
定休日:水曜、第2火曜(※定休日が祝日の場合は営業し、翌日休館)
公式サイト:https://yugawarasoyu.jp/
食べ歩きのおともに! 湯河原名物の“フルーツどら焼き”
一年を通してポカポカと温かく、実はフルーツ大国でもある湯河原。その実力をあますことなく味わえる名物が“フルーツどら焼き”です。湯河原駅から徒歩3分。甘い香りにさそわれて「どら焼き和果」の扉をくぐると、光のさしこむ窓辺で、どら焼きの皮がつぎつぎと焼きあがる真っ最中でした。
「今日は600個分を焼きました!」と笑顔で汗をぬぐうのは、和菓子を手がけて30年の店長・二見一正さんです。販売コーナーには、一般的などら焼きから、チョコ、キャラメルなどの洋菓子系、バナナ、桃といったフルーツ系まで、30種類近い商品がずらり。
人気はやっぱり湯河原みかん、湘南ゴールドといった名産を使ったどら焼きだそう。卵アレルギーのお子さんにも食べてもらえるようにと、「湯河原十二庵」とコラボして作った「とうふ豆乳どら焼き」も並んでいました。
さらに、「いちご生クリーム」「チョコ生クリーム」など、クリーム系はその場で作ってもらえます。「イチゴは今は旬じゃないんだけど、めちゃくちゃ人気なので頑張って仕入れています!」(二見さん)という通り、一度は食べおさめたはずのイチゴとも再会を果たしちゃいました。
「食べ歩きたい」と伝えると、ハンバーガーの袋に入れてくれました。甘いたまご生地で、ふわふわに焼き上げられた皮の間には、こぼれんばかりの生クリームとイチゴがぎっしり! このスイーツをおともに歩き出せば、景色がいよいよ輝き出します。しあわせなご当地の味、ぜひゲットして。
・どら焼き和果
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町土肥1-16-3-104
電話:0465-63-3633
営業時間:8:00~18:00
定休日:水曜・木曜(※商品が売り切れ次第終了)
老舗旅館「おんやど恵」で湯の恵みを味わいつくす
せっかくの温泉街に来たことだし、宿でも古き良き情緒を満喫したい! 温泉と美味しいごはんがあって、自然も豊かで、アクセスだって便利なところがいい! という旅人の願いを全部叶えてくれるのが「おんやど恵」。1944年創業の旅館です。
湯河原駅からは、バスで約7分。5階建ての大きな旅館が見えてきます。扉をくぐると、昭和のレトロゲームを発見。「卓球もありますよ〜」と聞いて、思わずにっこり。これぞ、THE 温泉旅館! 館内には江戸時代を思わせる粋なムードが漂います。
チェックインしたら、何はさておきひとっ風呂。源泉掛け流しの大浴場には、たっぷりとした湯量の内風呂と露天風呂、そしてサウナが併設されています。湯上がりには、汗がふきだして全身ツルツル。まっさらな光のさしこむ朝の露天風呂も楽しみです。
客間はひろびろとした和室で、窓を開ければ向かいを流れる千歳川のせせらぎが聴こえてきます。涼しい風にふかれながら、い草の香りがする畳の上で大の字になってひと休み。
お部屋でいただける夕食は、6種の「前菜」からはじまって、鮮魚の「お造り」、「マグロのスペアリブ」「飛騨牛ミニステーキ」など海の幸、山の幸がぞくぞく。さらに、この日は水揚げの時期が限られる貴重な桜エビが、お刺身、かき揚げ、炊き込みごはんなど、いろんな形でお目見えしました。
一方、お酒でうれしかったのは地元のクラフトビール。「とりあえずビール」の1杯目から、思いっきり湯河原にひたれます。
1階には足湯があるので、チェックアウトの直前まで温泉を浴び納め。湯河原の魅力を全身で味わいつくせるお宿です。
・おんやど恵
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上361
電話:0465-63-3001
定休日:年中無休
公式サイト:https://www.onyadomegumi.co.jp/
8月の夏祭り「やっさ祭り」も待ち遠しい!
癒やしの湯けむりと美味しいものに満ちた、情緒たっぷりの湯河原の町。来る8月2〜3日には「やっさまつり」が行われ、町中が盛り上がります。お祭りの見どころは、芸妓さんたちの一糸乱れぬ舞い、美しい花車、大迫力のお神輿などと盛りだくさん。
祭囃子や太鼓の音にさそわれて、一緒に「やっさ、もっさ!」と声をあげるのも楽しいし、クライマックスには約2,200発の花火も打ち上がるなど、最後まで目が離せません。初めての人も、再訪の人も、湯の国の新たな魅力に出会い、全身で味わえる絶好の機会になるはずです。
◎撮影/下田直樹 ◎モデル/小嶋彩音 ◎取材&文/矢口あやは
店舗情報、商品情報は取材時のもので、記事をご覧になったタイミングで変更となっている可能性があります。