「あれ?どこでもドアだったのかな?」と青森ヒバでできた立派な一枚板の扉が開いた瞬間、そう思ってしまいました。
全国各地に、その地域の魅力を散りばめた上質なリゾート施設を展開する星野リゾート。〈星のや東京〉は東京の中心地、大手町にあります。周りはオフィスビルに囲まれたビジネス街で、忙しく人々が行き交う都会のど真ん中。でも扉を隔てた向こう側には、今までの喧騒が嘘のように、まるで異次元の別世界が広がっていました。
穏やかで心休まる静謐な和の空間。靴を脱ぎ、畳の心地良い感触を足裏に感じながら一歩一歩進んで行くと、だんだん肩の力が抜け、体がほぐれていきます。畳敷きのエレベーターに乗ってお部屋へ。窓の向こうには相変わらず高層ビルがずらりと建ち並んでいますが、ここは静かな安全地帯。まるで夢でも見ているような不思議な気分です。
そしてびっくりしたのは最上階にある温泉風呂。まさか都会の真ん中に天然温泉があったとは。それだけでもかなり驚きですが、内湯の奥にある小さな薄暗いトンネルを抜けると、いきなりすこーんと開けた天井の高い露天風呂。
上を見上げると、四角く空がくり抜かれています。まるでジェームス・タレルの『光の館』のよう。昼間は流れる雲や鳥、夜は瞬く星を、ただぼーっと無心でいつまでも眺めていたくなってしまう。このひたすら放心する時間がスペシャルな癒やし、身体の芯からリラックスできます。
落語で楽しむ秋の味覚〈東京・ご馳走落語〉
〈星のや東京〉では、2022年9月1日〜11月30日まで、落語を通じて秋の味覚を堪能する〈東京・ご馳走落語〉というユニークなアクティビティを開催しています。館内の各フロアにある宿泊者専用のプライベートスペース〈お茶の間ラウンジ〉でのんびり寛いでいると、本物の落語家さんがひょっこり登場! 落語協会所属の真打、玉屋柳勢(りゅうせい)さんです。
そういえば落語ってあんまり聴いたことないなあ、という初心者さんもご安心を。ここでは最初にまず落語講座が開かれます。柳勢さんご本人が先生になって、落語の歴史背景、噺家さんの修行の話や階級制度、寄席の豆知識、食の仕草の表現方法などなど、基本の知識をわかりやすく教えてくれました。
ところどころ笑いも交えつつ、気さくな雰囲気でのお勉強なので、分からないこともどんどん気軽に質問できて楽しい! 普段だったらなかなか聞けない落語業界の面白い裏話もチラッと聞けちゃうかも。落語によく登場する仕草のひとつ、扇子を箸に見立てて、お蕎麦を食べるような仕草の上手なやり方も直接指導してもらえます。
【プロフィール】 六代 玉屋柳勢
1981 年、千葉県富里市生まれ。2005年3月に早稲田大学教育学部社会科を卒業し、柳亭市馬に入門。落語協会に所属、2020年3月に真打に昇格し、江戸から続く名跡である「六代 玉屋柳勢」を襲名。古典落語を得意とするとともに、新しい落語にも挑戦し続けています。
ひと通り学んだ後は、リラックスした雰囲気の中で落語を楽しみましょう。演目は月毎に内容が変わります。10月は『大工調べ』、11月は『夜鷹のそば屋』です。講座でお勉強した後なので、より理解を深めて落語を楽しむことができます。
ラウンジで寛ぎながら聴く落語もちょっと新鮮で優雅な気分。今回聴いた演目は『夜鷹のそば屋』でしたが、ホロリとするような人情話もあり、気付けばぐいぐい引き込まれてとても面白かったです。
【演目概要】
『大工調べ』
江戸時代、何度も起こった飢饉の際に、お米の代わりとして重宝されたのが薩摩芋であった。落語に登場する大家が芋屋だった過去を持ち、言葉の行き違いが原因で起こった騒動を描く滑稽噺。
『夜鷹そば屋』
子どもがいない老夫婦と親を知らないはぐれモノが登場する人情噺。老夫婦は夜鷹そば屋という夜更けまで、そばを流し売りする商売をしており、そばをすするシーンが登場する。
『目黒の秋刀魚』(9月で終了)
江戸時代、低級な魚として扱われていた秋刀魚を庶民と同じように食べたお殿様が、その味が忘れられないという滑稽噺。
さて、落語の後のお楽しみは、演目に出てきた食材を使った料理を味わうこと。ご馳走落語ならではの特別なアクティビティです。
写真は『夜鷹そば屋』にも登場する〈かけそば〉。新そばが出てきました。さらにそばを使った独創的なおつまみと、東京の酒蔵が造ったお酒も付いています。つまみは鴨南蛮から着想を得たという〈そばがきの鴨コンソメ〉、新そばにふぐの卵巣の糠漬けとクリームチーズを合わせた〈そば粉のブリニ〉、トリュフの香りが芳しい〈鴨とそばの実のカイエット〉の3種。
フレンチの技法と和の食材、発酵技術などを組み合わせた、モダンでヘルシーなつまみです。落語の余韻に浸りつつ、日本酒をちびちびやりながらつまみやそばを嗜む贅沢。これはたまらないですねえ。
〈東京・ご馳走落語〉概要
期間:2022年9月1日~11月30日
演目:『大工調べ』:10月1日~31日、『夜鷹そば屋』:11月1日~30日
定員:6名(最少催行人員2名)
料金:1名 20,000円(税・サービス料込、宿泊料別)
含まれるもの:落語、秋の食材を使用した料理、日本酒、落語講座
予約:公式サイト(https://hoshinoya.com/tokyo)にて14日前まで受付
対象:星のや東京宿泊者
体を整え、リフレッシュする「天空朝稽古」
最近はリモートワークが続いているし、運動不足で体が鈍ってしまった。これはどうにかしたい! というならば、早朝から始まる朝稽古に参加してみてはいかがでしょう。頑張って早起きしてエレベーターを上り、さらに階段を4階分ほど上って、ちょっとヘたりながら到着したのは地上160mの高層ビルの屋上ヘリポート!
東京のど真ん中にこんな絶景スポットが! ひゃーっ!と、しばしこの風景に浸ってしまいました。
スカイツリーも東京タワーも、新宿の高層ビル群も、360°遥か遠くまでぐるっと見渡せる大パノラマビュー。この眺めをひと目見たら、眠気も疲れも一気に吹っ飛んでしまいます。頑張って屋上まで上ってきた甲斐がありました。
この摩天楼に囲まれた景色の中で行われるのが「天空朝稽古」です。参加者ひとりひとりに木刀が渡され、気分はもはやスターウォーズのジェダイ。ライトセーバーのごとく、シャーっと木刀を上下左右に振り降ろして決めポーズ、爽快です。
星のや東京のある大手町エリアといえば日本屈指のオフィス街ですが、江戸時代には武家の上屋敷が建ち並び、武士たちによる剣術の稽古が盛んに行われていたそうです。このアクティビティでは、かつて神田に道場を構えた剣術流派〈北辰一刀流〉撃剣会の師範が監修した、剣術動作と深呼吸を組み合わせたオリジナルの稽古を行います。
木刀を上から下に振り下ろす〈真っ向切り〉、左から右に横へ動かす〈胴切り〉、右上から左下へ斜めに振り下ろす〈袈裟切り〉など、一連の所作を学びます。丹田に力を入れ、深く呼吸を意識しながら、大きくゆっくりと木刀を振るので、剣術でありながらヨガのような感覚もあり、身体のこわばりを緩め、全身の筋肉を動かし、スッキリ整えてくれます。早朝の爽やかな空気の中で、高層ビル群を眼下に眺めながらの朝稽古は、またとない体験です。
〈天空朝稽古〉概要
期間:2021年6月1日〜通年
時間:6:45〜7:45
料金:無料
定員/対象:6名様 *12歳以上
予約:星のや東京フロントにて前日21:00まで受付
*雨天中止。また、前日の天候状況によりアクティビティのスケジュール、内容が一部変更になる場合があります。
持ち物:動きやすい服装、運動靴
*4階相当の屋外階段を上りますので、ヒールのない靴でご参加ください。また安全のため、スカートや踵が隠れていないお履物(サンダルなど)ではご参加いただけません。
*お手荷物(携帯電話・スマートフォン、飲料等を含む)は一切お持ち込みいただけません。
星のや東京は、江戸情緒溢れる和やかな癒やしと寛ぎの中に、最先端の現代的な心地よい刺激が混在し、過去と未来を自由に行き来しながら、江戸と東京を同時にミックスして楽しめる、そんなここだけの要素がふんだんに詰まった日本旅館でした。
星のや東京
住所:東京都千代田区大手町1丁目9−1
☎︎: 0570-073-066
HP:https://hoshinoya.com/tokyo/
取材&撮影&文/江澤香織
価格は税込です。店舗情報、商品情報は取材時のもので、記事をご覧になったタイミングで変更となっている可能性があります。