土曜日の深夜に。日曜日の昼間に。映画にどっぷり浸りたい。そんなあなたを、映画コラムニストの新谷さんが、素敵な映画へナビゲート。今回のテーマは“人生の糧になる映画”です。「今年の夏は何をしますか? 旅に出たり、休暇を使って日頃できないことをしてみたり……計画を立てる時間もワクワクするものです。今回は“夏”、“学び”、“人生”をキーワードに3本セレクトしました」(新谷さん)
友人の大切さを改めて思い出せる
『旅するジーンズと16歳の夏/トラベリング・パンツ』
人生において成長する“瞬間”がありますが、そのタイミングは人それぞれです。ものすごく早い年齢で成長する人もいれば、ある程度の年齢を経て訪れる人もいる。それでも、あの時の経験があったから今がある──というような、自分自身のなかで“何かが変わる”瞬間があると思うのです。
『旅するジーンズと16歳の夏』の4人の主人公たちは、16歳の夏に大きく成長します。自由奔放なブリジット、内気できれいなリーナ、反逆児のティビー、書くことが好きなカーメン、生まれたときからずっと一緒、楽しいことも悲しいことも支え合いながら、まるで4人で1人のように育ってきました。けれど、16歳の夏は初めて4人別々で過ごすことに……。
そして、離れている間も絆を感じていたい! と、あるアイデアを思いつくのです。それは、新調も体型も違う4人全員になぜかぴったりフィットするジーンズと出会い、1週間履いて、その間に起きたことを綴って、次の相手に送るという、交換日記ならぬ交換ジーンズ! 女の友情は薄いとか続かないとか言われますが、そんなことはなくってよ! と、映画を観た後に大切な友人を思い浮かべたり、この夏、どこか一緒に出かけたくなる、そんな青春映画です。
▶︎〈TSUTAYA〉で『旅するジーンズと16歳の夏/トラベリング・パンツ』を視聴
行動をすることを忘れないで
『かもめ食堂』
現状を変えたい、抜け出したい、そんなふうに漠然と変化を求めてしまうこと、ありますよね。仕事を変えたいとか、恋愛をリセットしたいとか、理由はいろいろであっても、とにかくなにか行動に移さないといけない気がする──そんなふうに気持ちを掻き立てられたときに観たくなる映画のひとつが『かもめ食堂』です。
小林聡美さん、片桐はいりさん、もたいまさこさん、演技派と言われる3人の俳優が共演というのも見どころ。そして、彼女たちが演じるキャラクターに共通するのは、現状を変えたい気持ちからフィンランドという街にたどり着いたことです。ある夏の日に食堂をオープンさせたサチエ、世界地図を広げて指さしで何気なく選んでやって来たミドリ、両親の介護を経てたまたまテレビで見たフィンランドに興味を持って訪れたマサコ。偶然出会った3人の交流を、ゆるやかに、コミカルに、心地よく描いた人生ドラマなのです。
目的がある旅もあれば、行った先で目的が生まれることもある。小さな旅もあれば、人生に大きな影響を与える旅もある。夏休みというものがあるからなのか、夏は旅をしたくなる季節。この映画を観たら、もちろんフィンランドに思いを馳せることでしょう。
生きるために必要なものを教えてくれる
『20センチュリー・ウーマン』
10代は想像以上に多くのものを感じ取る年代です。この映画のなかで登場する“多感”な人物は15歳のジェイミーです。彼の母親ドロシアは働きながら息子を育てるシングルマザーで、1979年の夏、彼女は自分の身近な女性たちに、息子の教育を手伝ってほしいと相談を持ちかけます。
ここでいう教育とは、勉強とは違います。母と息子、決して関係性が悪いわけではないのですが、息子が興味を持つものや考えについていけなくなった母ドロシアは、このままではいけないと思ったのでしょう。混沌として時代に自分を保って生きていくことは難しい、生きるためのノウハウを息子に教えてやってほしい……と、2人の女性たちに相談するのですが、その相手がちょっと変わっていて、そこがこの映画の魅力でもある。
一人は、ドロシアの家で間借りをしている24歳の写真家アビー。もう一人は、ジェイミーの2つ年上の幼なじみジュリー。どちらも、ある問題を抱えている女性で、結局のところ、15歳のジェイミーも彼をとりまく女性たちも、みんながみんな刺激しあって成長していく。特に、女性たちの枠からはみ出るような生き方に、観る者はきっと刺激を受けると思うのです。
▶︎〈TSUTAYA〉で『20センチュリー・ウーマン』を視聴
この夏は、自分と向き合える映画を
久しぶりの連休や夏休み、もしくは暑くて外に出たくない日にぜひおうちで観て欲しい、今までの人生を振り返るきっかけになるような映画。映画の情景で夏気分を味わいながら、自分と向き合う時間を作ってみるのも、素敵な夏の過ごし方だと思います。ぜひご覧ください。
◎文/新谷里映 ◎イラスト/moeko