土曜日の深夜に。日曜日の昼間に。映画にどっぷり浸りたい。そんなあなたを、映画コラムニストの新谷さんが、素敵な映画へナビゲート。今回のテーマは“雨の日、気分の晴れる映画”です。「今回ピックアップした映画に共通するのは、観終わった後のすっきり感。お仕事ムービー、サスペンススリラー、音楽ラブストーリー、ジャンルの異なる3本を楽しんでください!」(新谷さん)
爽快感あるお仕事ムービー
『タイピスト!』
どんな職業に就きたいか──。学生から社会人になるタイミングで、もしくは働いている今も、自分は何をしたいのか、何になりたいのか、誰もが一度は自分にとっての職業について真剣に向きあったこと、あると思います。
何をしたいのか悩んでしまうのは、それだけ選択肢が多いということですが、この映画の舞台1950年代末のフランスでは、女性が職場に進出したばかり。当時の女性たちの憧れの職業ナンバーワンは秘書でした。なかでもステイタスを得られたのは、タイプライターの早打ち大会で勝って、タイピストというスターになること。主人公のローズも例外ではなく、秘書になることが夢。保険会社を経営するルイの秘書として雇われるものの、ドジで無器用で、すぐにクビを言い渡されてしまいます。でも辞めたくない! 秘書として働き続けるためにルイが出した条件は、タイプライターの早打ち大会で優勝することでした。
というわけで、ローズはまるでスポーツ選手ですか? っていうほど体を鍛え、メンタルも鍛え、早打ちの特訓に励みます。お洒落なフランス映画ですが、中身はスポ根! かわいいのにスポ根なのです! もちろんそのなかにはロマンスも描かれている。爽快感あるお仕事ムービーです。
散りばめられた謎や伏線を見破れるか
『ピエロがお前を嘲笑う』
運動した後のすっきり感、何かの問題が解決したときのすっきり感、気分が晴れる瞬間は色々ありますが、映画におけるすっきり感には、そういうことだったのか! と謎が解き明かされる瞬間も含まれますよね。
何とも意味深な邦題が付けられているこの映画は、ドイツの映画。タイトルからはどんな映画がピンとこないかもしれないですが、原題は「Who Am I – Kein System ist sicher(私は誰、安全なシステムはない)」。これは、劇中に登場するセリフでもあって──天才ハッカー、ベンヤミンのお話です。めちゃくちゃ頭はいいのに、学校では誰にも相手にされず、バイト先でも馬鹿にされて、想いを寄せている女性にアプローチもできない。まるで透明人間のように生きていたベンヤミンは、ある日ハッキングという共通の趣味を持った青年と出会い、彼の仲間と一緒にハッカー集団“CLAY(クレイ)”を結成します。自分たちの才能を世間に誇示するかのように次々とハッキングを続けるなかで、ある日殺人事件が起き……。
なぜ事件は起きたのか、犯人は誰なのか、その真相が明らかになっていくのですが、最後の最後まで何が真実なのか分からない! ものすごくよくできた脚本なのです。心地よく惑わされちゃってください!
一歩前へ踏み出したい方へ
『はじまりのうた』
失恋から立ち直る、きっと誰もが経験していると思います。失恋直後というのは、食事も喉を通らなかったり、何もかもどうでもよくなったり、世界が終わったかのような喪失感に襲われますよね。けれど、明けない夜はなくて、心に空いた穴も少しずつ小さくなって、やがて傷は癒えていく──。
この映画にも、立ち直る姿、一歩前に進もうとする姿が描かれていて、もやもやしたものが晴れていくような、そんな温かい気持ちに包まれます。主人公はキーラ・ナイトレイの演じるグレタ。恋人と一緒に作った曲が映画主題歌に抜擢されてメジャーデビューが決定、ニューヨークにやって来ます。人生も恋愛も順調でしたが、彼の浮気が発覚したことで、こんなはずじゃなかったのに……と、一瞬でどん底に。
行き場を失ったグレタは、マーク・ラファロの演じるダンと出会います。ダンもまた、仕事のうえで喪失を抱えていた男性でした。かつては敏腕音楽プロデューサーだったのに、時代の流れに対応できずに歩みを止めてしまっていたのです。そんな2人が出会ったら……そう、新しい音楽が生まれる! 自分たちらしい方法で音楽を作ることは、彼らにとって再生の時間でもあって、生み出される音楽がとっても素敵なのです。
(2022年6月3日現在は配信中)
雨の日、沈んだ心を晴れやかに
天気の悪い日が続くと、どうしても気分が沈んでしまいますよね。そんなときにぜひ、今回紹介した爽快感溢れる映画の力を借りて、気分を変えてみてください。どんよりした気分が晴れること間違いなしですよ。
◎文/新谷里映 ◎イラスト/moeko