20代半ばで、歴史的名作『セールスマンの死』を観覧し、感銘を受け、「いつかこの舞台に参加したい」と熱望。その機会が巡ってきた今、「こんなに早く関われるとは思っていなかったので驚きましたが、嬉しいです」と、素直に喜びの気持ちを表す林 遣都さん。本作は、敏腕セールスマンだった主人公ウィリー・ローマンの転落や家族の崩壊、若者の挫折を描く人間ドラマ。林さんも30代になり、改めて作品に触れると、感じ入ることも多いよう。
林:僕はこのお仕事のために10代で家を出ていて、家族で過ごす時間がわりと短く、会話も少なかった。だからこそ数年前に観たとき、心を掴まれたのかなと。そこから年を重ね、僕も歳になり、家族との時間が増えてきた今、台本を読むと、とても身近に感じる作品で。偉大な父親の存在、兄弟の関係性……愛情があるからこそこじれてしまう、真に家族らしいお話だなと思います。
――ウィリーには、長男のビフと次男ハッピーの二人の息子がいる。林さんが演じるのは、女たらしで遊び好きな青年ハッピー。自身も次男の立場から「共感できる」そう。
林:兄のビフはかつてアメフトの有望選手で、父親も期待していた。僕自身は兄の影響で野球を始めましたが、スター選手の兄とは違い、早いうちに諦めたので、兄に対してちょっとした嫉妬もあったと思うんです。だから、ハッピーと生き方は違えど、胸の奥にある次男ならではの苦悩など、根本にあるものは理解できる。そういうところも向き合いながら、ハッピーという役を作っていきたいなと思っています。
――奇しくも、林さんのデビュー作は、野球を題材にした映画『バッテリー』でした。
林:自分は何も頑張っていなかったのに、気づいたらスカウトされて、映画が決まり、複雑な思いがありました。だから当時、真剣に野球をやっていた兄とは映画について一切話せなかった。でも、高校最後の夏の大会、ケガをして出場できなくなってしまった兄が、野球部員の皆さんの前で『今度、弟が野球の映画に出るので、みんな観てください』と言ってくれたそうで。それはあとから母に聞いたんですけど。そんなこともありました(笑)。
――これほど共感性の高い役柄を演じることについてはどんな思いかをたずねると……。
林:楽しいです。自分とかけ離れた役を演じるときとは違った感情が生まれてくる瞬間があります。それは自分の過ごしてきた人生が仕事に活きていると思えたり、この家族に生まれてよかった、この道に進んでよかったと、自分の人生を肯定できる瞬間でもあるので。共感できる作品、役柄に出会えるのは嬉しいことです。
PROFILE
はやし・けんと●1990年12月6日生まれ。滋賀県出身。2007年、主演映画『バッテリー』で俳優デビュー。
INFORMATION
パルコ・プロデュース2022『セールスマンの死』
舞台は1950年代前後のアメリカ・ニューヨーク。63歳のセールスマン、ウィリー・ローマンは誇りである仕事を失い、2人の息子とも微妙な関係。手にした夢は崩れ始め、すべてに行き詰まったウィリーの死に至る最後の2日間を描く。
東京公演:4月4日(月)〜29日(金・祝)PARCO劇場
松本公演:5月3日(火・祝)まつもと市民芸術館 主ホール
京都公演:5月7日(土)・8日(日)ロームシアター京都 メインホール
豊橋公演:5月13日(金)〜15日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
兵庫公演:5月19日(木)〜22日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
北九州公演:5月27日(金)〜29日(日)北九州芸術劇場 大ホール
作:アーサー・ミラー
出演:段田安則、鈴木保奈美、福士誠治、林遣都、鶴見辰吾、高橋克実ほか
シャツ 38,500円/ユーゲン(イデアス) その他/スタイリスト私物
◎撮影/田形千紘 ◎スタイリング/菊池陽之介 ◎ヘア&メイク/主代美樹(GUILD MANAGEMENT) ◎取材&文/関川直子
2022年mina5月号より