永く愛され続ける「いいもの」には、それを裏付けるストーリーがあります。今回掘り下げるのは、使う人のことを考えて生み出された機能的なデザインが魅力の<柳 宗理の鉄フライパン>です。
さびにくい表面加工を施した、使い勝手のいいユニークな形状の鉄フライパン
さび防止のため、表面を窒素で硬化する加工が施されている。
18cm(W33.8×D21.8×H7.2cm)7,150円、22cm(W40×D26×H10cm)8,800円、25cm (W45.5×D29×H10.9cm)9,900円/佐藤商事
日本を代表するインダストリアルデザイナーのひとり、柳 宗理氏。蝶が羽を広げたようなフォルムのバタフライスツールや、柔らかな曲線を描くステンレスカトラリーをはじめとする、ミニマルながら温かみのあるデザインを数多く生み出しました。
柳氏が手掛けた家具やキッチンツールの最大の特徴は、使い手の視点に立った機能的なデザインであるということ。そのため、柳氏が設立した柳工業デザイン研究会のものづくりは、一般的な方法とは一線を画しています。
デザインを考える際、スケッチで描いた形状を3Dデー タに落とし込み仕上げるのが一般的な方法。それに対し、手で使うものは手でつくるべきだという考えのもと、石膏などで立体模型をつくるところからスタートするのです。そうしてできた模型を触ったり動かしたりしながら使い心地をたしかめ、ブラッシュアップを重ねていきます。実際に使うシーンを想定して何度も改良を行うため、ひとつの商品が完成するまでに、なんと2~3年を要するそう。
表面の凹凸が焦げ付きを最小限に
繊維状の凹凸を浮き立たせた表面加工を施しているので、食材との間に隙間ができ、こびり付きにくい。
ずらして使える蓋で調理が快適に
蓋は回転させると隙間が開くので、加熱中に蒸気を逃したり、下茹で後の水を捨てたりするのにも便利。
1999年に製造を開始した鉄フライパンは、左右に張り出した形が特徴。カーブをつけることで、料理を皿に移しやすくしています。この形状に仕上げるには、カーブ部分にしわが寄らないよう、圧力をかける速度を調整しながら加工する必要があるのだとか。
既成観念や流行にとらわれず、使う人のことを考え、手間暇かけて生み出されたデザインは、使い続けるほどによさを実感でき、永く大切にしたい存在になるはずです。
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◎撮影/志田裕也 ◎取材&文/名和里穂
価格は税込です。店舗情報、商品情報は取材時のもので、記事をご覧になったタイミングで変更となっている可能性があります。